「百日咳」は予防するのが一番!

百日咳

百日咳流行のニュースが流れています。当院でもここ何日か、百日咳を心配される患者さんが増えています。東京都の週報が分かりやすいので、こちらからご覧ください。百日咳のグラフはこちら。(※2025/4/9閲覧) 例年と比べてかなり多いことが分かります。

百日咳って何?

百日咳はボルデテラ・パータシス(学名 Bordetella pertussis)という細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。

子供に多く、おおよそ8割程度が15歳以下とされます。典型的には5-10日間の潜伏期間を置いて風邪症状が始まり、しだいに咳がひどくなります。顔を真っ赤にして激しく咳き込んだり、息を吸うときにヒューヒューいうことがあります

大人でもかかることはありますが、子供にくらべると上記のような典型的な症状ではなく、普通の咳が続くだけ、ということが多いです。以前は小児科特定把握疾患でしたが、成人でも問題となるので、2018年1月より感染症法の5類全数把握疾患となりました。特にCOPDや喘息など呼吸器の持病がある高齢者は重症化して入院するリスクも高く、要注意です。

百日咳と分かったら?

百日咳は、菌が増殖している「カタル期」が1-2週間抗体ができて菌が減っていくけど咳が残る「痙咳期」が2-6週間、その後回復期に向かいます。100日間咳が続くとは限らないのですが、あまりにつらいので「百日」と言いたくなりますね。

実はこのカタル期に抗菌薬(抗生物質のことです)を飲むと菌は減るのですが、なんと症状は良くならないと言われています。菌が減っても気管支が痛んでしまっている訳ですね。その代わり、菌が減ることにより他の人へ感染する可能性は下がります。百日咳の基本再生産数(1人の患者から何人に感染が起こりうるか)は12-16程度というデータがあり、感染力が最強・最恐の麻疹(はしか)とほぼ同等です。なので、「自分が回復するか」というより、「周囲の大切な人(赤ちゃん、高齢者)へ感染させないため」の治療となるわけです。

百日咳はどうやったら分かる?

特に大人の場合、百日咳に似た病気はたくさんあります。肺炎や喘息などです。これらはレントゲンは呼気NO、また特徴的な経過から判断し、すぐ治療を行うことで改善が期待できます。

一方で百日咳は、そうであると確定診断するために、以前は1-2回の採血 = つまり2-3回の通院が必要でした。(今でもこのように診断されることは多いです)しかし結果が分かるころにはカタル期も過ぎ、結局は咳止めを飲みながら治まるのを待ちましょう、といったことが多かったです。

最近ではより簡便な「イムノクロマト法」(インフルエンザやコロナを調べる時の、鼻に綿棒をつっこまれて、線が出るのを待つ、アレです)、あるいは正確性と比較的迅速性に優れた「LAMP法」(綿棒は同じですが、検査機関へ輸送して菌の遺伝子を調べる)などがあります。ただやはり、診断しても自分への特効薬はないので、実際に百日咳の検査を積極的に行っている医療機関は多くないと思います。

今回報告数が増えているのは、「検査数が増えたため見つかる患者さんが増えている」といった側面もあるかもしれません。(いち呼吸器内科医の私見です)

百日咳の予防は?

かかってしまうと咳を治めがたい百日咳は、ワクチンで予防するのが一番です。小児の場合、現在では5種混合ワクチン(百日咳、ジフテリア、破傷風、ポリオ、Hibの5種類)が定期接種で打てます。ワクチンにはゴービック、クイントバックの2種類があります。

実は欧米では、以下の理由で成人でも百日咳の予防が重視されています

  1. 百日咳は成人では軽症になりやすく、自覚が少ないまま乳児へうつすことがある。
  2. 乳児は重症化・死亡リスクが高いため、周囲の大人がワクチンで守る「コクーニング※戦略」が推進されている。(※cocooning 蚕を守る繭 cocoonから)
  3. 特に妊婦へのTdap※接種は、胎盤を通じて赤ちゃんに抗体を与えられるため、世界的に推奨が進んでいる。(※ 小児用の3種混合をワクチンを成人用に改良したものをTdapと呼びます

日本と海外の百日咳ワクチンについて表で見てみましょう。

百日咳の成人ワクチン:日本 vs 海外(主に米国・欧州)
項目🇯🇵 日本🌍 海外(米国・欧州など)
使用ワクチン主に小児向けの「DPT-IPV(四種混合)」成人用は明確な推奨が少ない成人向け三種混合ワクチン(Tdap)を使用
成人への定期接種❌ 定期接種ではない(任意接種)定期接種または強く推奨(米国、オーストラリアなど)
接種タイミング特定の推奨なし(例:妊婦や医療従事者には勧奨されることも)11〜12歳でTdap、以降10年ごとにTdブースター妊婦は妊娠毎に1回Tdap推奨(米国)
感染対策の意識成人では軽症が多く、流行対策の意識はまだ低い傾向成人が乳児への感染源になることを重視し、予防接種が広く導入されている

日本ではワクチン行政の遅れや意識の低さなどから、欧米に比べて成人向けの百日咳ワクチンが普及していないんですね。

大人でも今打てる百日咳のワクチンはあるか?

あります。自費になりますが、小児で用いていた3種混合(百日咳、ジフテリア、破傷風)のトリビックがあります。欧米のTdapと比べてジフテリア・百日咳成分の抗原量が多く成人がこれを打つと、強い局所反応(腫れ、痛み、発熱など)が出やすいといった点はありますが、怖いものではありません。ご希望の方は、当院でも接種できます! お電話や受診時にお問い合わせください。