スポーツで生じる喘息症状について

定点医療機関から昨年末12/23-29の1週間に報告されたインフルエンザの感染者数が、1医療機関あたり64.39人となり、現在の集計方法になった1999年以降で最多となりました。

しかし年が明けて一転、年末よりインフルエンザが陽性となる患者さんはだいぶ減っており、すでにピークは過ぎた印象です。

さて先月から中学生の患者さんまで拝見しておりますが、部活等でスポーツをしている喘息の方が多いようです。本日は、運動と喘息について書きます。

運動で呼吸の量が増えると、気管支が乾いて喘息発作?

 最大運動能力の80-90%の負荷を7-8分かけると咳や息苦しさが出る現象を「運動誘発性気管支攣縮」(略してEIB)と呼び、元々喘息持ちの方や、そうでない方にも起こりうるといわれています。こういった症状が起こる子は幼稚園~小学校で少ないとされますが、中学~高校生になると全体の15-20%にもなるとのデータがあります。

 運動でこういった症状が起こる直接の原因は主に乾燥、そしておそらく冷気と推測されます。平たく言うと、「運動でハアハアしていると、気管支が乾いて冷えて、その刺激で喘息発作っぽくなりやすい」ということです。実際のところEIBは長距離走や、ずっと動いている競技(マラソン、サッカー、バスケットボール、水泳など)で起こりやすいです。また、 同じ持久運動でも水泳よりスケートやクロスカントリーでリスクが高いとされます。また水泳では、塩素と喘息発症との関係性を指摘した報告も近年出ています。

ウォーミングアップ ➡ 休憩 ➡ 本番の運動で発作予防

 10分程度の軽いウォーミングアップ ➡ 10分程度の休憩 ➡ 本来の運動」の順で行うと、2時間程度は喘息発作(正確に言えば上記のEIB)がおきづらくなることが分かっています。ウォーミングアップ時の心拍数は160回/分以下とすることが推奨されます。最近はスマートウォッチで簡単に脈拍数が測れるので、活用しましょう。

 メプチンやサルタノールなどの短時間作用型β刺激薬、あるいはシムビコートやブデホルのようなが即効性の長時間作用β刺激薬が処方されている場合は、運動後の発作時に吸う、あるいは起きそうな場合の事前に吸う、というのが有効です。もちろん規定回数を吸うのはNGです。

喘息治療薬と「うっかりドーピング」の問題

 ロンドン五輪の日本選手団を調べたところ、12%の選手に喘息があったそうです。対して一般集団の喘息患者さんは5%程度ですので、トップアスリートは喘息を持っている可能性が高いと言えます。(そして、その原因は激しいトレーニングにあるのかもしれません)

 トップアスリートやそれを目指す方にとって、喘息治療薬が意図しないドーピング、いわゆる「うっかりドーピング」となってしまう問題があります。多くの吸入薬は申請で、あるいは申請不要で使用可能ですが、一部の内服薬や貼り薬には使用不可な物があります。どうぞ医師にご相談ください。


  

まとめ

  • 最大運動能力の80-90%の負荷を7-8分かけると咳や息苦しさが出る現象:「運動誘発性気管支攣縮」(略してEIB)
  • 運動でハアハアしていると、気管支が乾いて冷えて、その刺激で喘息発作っぽく(上記EIBに)なりやすい
  • 「10分程度の軽いウォーミングアップ ➡ 10分程度の休憩 ➡ 本来の運動」の順で行うと、2時間程度はEIBが起こりづらい
  • メプチンやサルタノール、あるいはシムビコートやブデホルを頓用で使うと、EIB予防に有効
  • ハイレベルな競技会に出る場合は、喘息治療薬が「うっかりドーピング」にならないか、医師と相談を!