咳で受診のたびにレントゲンを撮って大丈夫?

当院では咳が続く患者さんに対して、積極的に胸のレントゲン検査を行っています。中には「この前もレントゲンを撮ったのに、また撮って大丈夫ですか?」と心配をもたれる方もおられます。

確かにレントゲン = 放射線で怖いもの、と思ってしまいますね。実際のところどうなのでしょうか? そして、咳でレントゲンを撮る意義はどうなのでしょうか?

胸部レントゲンで身体に悪影響が出ることは、現実的にはありえない

世界保健機関(WHO)や国際放射線防護委員会(ICRP)の指針では、 医療被ばくに安全な年間上限は特に定められていません(診断のためならある程度多くても問題ないとされます)。

ただし、参考までに:

総被ばく量影響の目安
2.4 mSv/年一般人が1年間に自然界から受ける放射線量(自然被ばく)
50 mSv/年健康被害はほぼなし(医療被ばくなら許容範囲)
100 mSv/年以上がんのリスクが統計的に有意に増える可能性が出てくる
500 mSv白血球の一時的減少や、長期的ながんリスクの上昇が懸念されるレベル
1000 mSv(=1 Sv)急性放射線障害(吐き気・倦怠感など)が出ることも

一般的な胸部レントゲンの被ばく量は、1回0.05 mSv。これは飛行機で東京からハワイに1回行く時と同じくらいの自然放射線と同程度の量です。

1000枚/年(約3枚/日)撮ってようやく50 mSv程度

→ 現実的にはここまで撮ることはまずありません。つまり、1回1回のレントゲンで体が受ける放射線はあまりに微量なため、「咳が出て頻繁にレントゲンを撮られる」としても、身体に悪影響が出ることは通常ありえません。

妊婦さんへの胸部レントゲンも基本安全と考えられるが、ご不安に対する配慮も必要

胎児への明らかなリスク(奇形や流産など)が報告されるのは、100mSvを超えるような高線量で、 通常の胸部X線検査ではその数百分の1以下です。ICRP(国際放射線防護委員会)や日本放射線技術学会も「妊婦への胸部X線は胎児のリスクが極めて小さい」としています。

だからといって、妊婦さんにも通常の方と同じようにレントゲンを撮るか? それは「No」だと思います。自然に起こる奇形や流産の確率を上げないと言っても、実際にレントゲンを撮った後にそういったことが起これば、後悔してしまうのが人間だと思います。

したがって、実際の医療現場では次のように対応されることが多いでしょう。

状況対応
感染症や肺の病変が疑われるとき母体と胎児の安全のために撮影は推奨されることが多い
不必要な検査・繰り返し撮影避けるべき(リスクゼロではないため)
妊娠初期(特に10週未満)より慎重に判断し、撮影時は腹部防護などで対策

止まらない咳の原因に、見逃してはならない病気が潜むことも!

咳が長引く方にレントゲンを撮っていると、多くの場合で明らかな異常は見つかりませんが、10人に1人程度で肺炎などが見つかる印象※です。

(※当院は咳が長く続く方を専門的に診ているため、通常の内科診療所より異常が潜んでいる確率は高いと推察されます)

肺炎の他、見逃してはいけない病気もあります。例えば肺がん、心不全、結核、間質性肺炎などです。レントゲンを撮ることでこれらを疑い、必要に応じてCTを追加で撮ることで正しい診断と治療が可能になります。場合によっては、すぐに大きい病院へ精密検査や治療をお願いすることもあります。

短期間でレントゲンを撮り直すのは、変化が早い病気を見つけたり、治療の効果を確認したりするため

「先月健診でレントゲンを撮ったばかりなのに、また撮るのはちょっと…」と仰る方もおられます。被ばくが問題ないのは上で述べたとおりです。ではなぜ最近撮ったばかりなのに、またレントゲンを撮り直すのでしょうか?

病気の種類変化のスピードとレントゲンの頻度
肺非結核性抗酸菌症など年の単位で進行するため、たびたびレントゲンを撮る必要性は低い
肺がん・結核など月の単位で進行するため、月の単位でレントゲンを撮ることは多い
肺炎・気胸・出血など週~日、場合によっては時間の単位で変化するため、短期間で撮り直すことが多い

このように病気の種類によっては、昨日大丈夫でも今日大丈夫か分からない!ということがあるので、短期間でレントゲンを撮り直すことはあります。特に多い肺炎は、数日で影が出てくることもありますね。また治療によって日~週の単位で改善もするので、ちゃんと良くなっているかどうかを確認する時も、やはり短期間でレントゲンを撮り直します。

レントゲンはあなたの体を守る大切な検査です!

以上のようなことを考えながら、医師は患者さんのレントゲンを撮るようにしています。一方で、安全と言われても不安な気持ちが起きてしまうことも、私たちは心得ています。

ご心配がある場合は、遠慮なく医師または看護師にご相談ください。私たちの仕事は、みなさまの体を守ることです。ご受診の方々が安心して検査を受けられるように、しっかりサポートいたします。