2つの肺炎球菌ワクチンについて

肺炎は非常にかかる方が多い疾患です。若い方でも肺炎になるのですが、特にご高齢な方にとっては怖い病気です。というのも、肺炎で亡くなる方の97.9%が65歳 1) だからです。65歳といえば、肺炎球菌ワクチンが定期接種となる年齢です。

今回は肺炎球菌ワクチンについてお話します。

肺炎球菌は怖い

日本人の肺炎3,077例を集計したデータによれば、肺炎球菌は2位のインフルエンザ桿菌(名前が同じですがインフルエンザウイルスではありません)7.6%を大きく引き離し、18.8%で圧倒的1位の原因菌です 2)。また75歳以上では原因の27.5%(3割弱)という集計もあります 3)。まさにその名に「肺炎」を冠するにふさわしい、肺炎を起こす原因の王者と言えるでしょう。

肺炎球菌による肺炎は重篤になることもしばしばあり、菌血症や髄膜炎などを合併する「侵襲性肺炎球菌感染症」もまた恐ろしく、その死亡率22.1%、後遺症を残す方が8.7%といったデータがあります 4)

私の治療経験でも、治る方の方が多いとはいえ、肺炎をきっかけに一気に体力が落ちて老け込んでしまう方から、集中治療室で命がけの闘病をされた方まで様々な患者さんがおられました。

やはり予防が第一であると強くと感じます。

ワクチンで予防できる肺炎

ご高齢な方で肺炎を予防するには、

① 体力をつける・筋力を落とさない

② 口の中をきれいに保つ・食事はゆっくり食べる

③ ワクチンを接種する

が大切です。

①②は誤嚥予防という訳ですが、これについては機会を改めて書きたいと思います。

③のワクチンについては、肺炎球菌、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルスの3つが接種可能です。後者2つと比べ、肺炎球菌ワクチンは種類や接種スケジュールがやや分かりづらいので、ご説明します。

2つの肺炎球菌ワクチン

肺炎球菌ワクチンには「莢膜多糖体ワクチン(PPSV)」と「結合型ワクチン(PCV)」の2種類があり、従来からある「TVでCMをやっている」「65歳以上、5の倍数の年齢で初めて打つときに自治体から補助が出る」「5年毎に打つ」といったワクチン = ニューモバックス®が、前者のPPSVに相当します。残念ながら、10年間の経過措置が終了し、2024年4月からは70歳以上の5の倍数年齢で補助はなくなりました。

PPSVの歴史は古く、1940年に6種類のタイプの肺炎球菌に効く(6価)ワクチンが生まれ、以後改良を重ねながら、現在用いられる23価のニューモバックスが1988年に本邦で接種可能となりました。このPPSVは、免疫が5年程度しか持ちません。したがって繰り返して接種する必要があります。なお以前は接種回数が制限されていましたが、安全性が確認されたため、現在は回数制限がありません。

一方、2014年から本邦で接種可能となったプレベナー®がPCVに相当します。PCVの良いところは、1度打つと長期(生涯)免疫が続く点にあります。一方でたくさんのタイプの肺炎球菌をカバーするのは技術的に難しく、プレベナー13という13価ワクチンが最近まで最大価数でした。

現在日本で打てる最新のPCVは、2023年に登場した15価のバクニュバンス®です。ニューモバックスと組み合わせることでブースター効果(相乗効果)も得られます。ニューモバックス単独だと有効率3割 5) に対し、PCVとの組み合わせ接種では8割の有効率であったとする報告 6) もあります。そういった効果もあり、米国CDCではこの組み合わせ接種が推奨されています。なお米国ではプレベナー20が発売されており、これを単回接種することも同様に推奨されいています。いつか日本でも使えるようになるかもしれません。

バクニュバンスは現状自費での接種となり、多くの医療機関で1万円ちょっとくらいです。ニューモバックスとの接種間隔を1年以上空けると相乗効果が良く 7)、これが推奨されています。

肺炎球菌ワクチンを打つことのコストパフォーマンスはどうでしょう? あくまで平均値ですが、75歳以上で年間の肺炎に関わる医療費が、肺炎球菌ワクチン接種あり vs. なしで68,655円 vs. 200,215円だった、という研究結果があります 8)。保険としては割が良いと言えるのかもしれません。もちろんお金以前に、健康を損なってしまうリスクも重大です。

副反応は注射部位の腫れや発熱・関節痛

最後に肺炎球菌ワクチン全般の副反応ですが、接種局所の腫れや発熱・関節痛などです。その程度・頻度は新型コロナワクチンよりやや軽い・少ないといったところです。接種時に発熱がある場合は、副反応によって発熱があっても分からなくなるため、接種を延期した方が良いと考えられます。

まとめ

まとめますと、

65歳以上で肺炎球菌ワクチンを2種類接種するのがお勧め。

・従来からの「ニューモバックス」は5年毎(65歳なら費用補助のチャンスあり)に。

・新しい「バクニュバンス」はニューモバックス接種から1年以上空けて、一生に1回接種すればOK。

です。

当院では上記2タイプの肺炎球菌ワクチンを取り扱っております。ご希望の方はいつでもお電話等でご相談下さい。

-文献-

1) 厚生労働省. 人口動態調査. 2021(令和3)年

2) Fujikura. BMJ Open Respir Res. 2023;10(1).

3) 高柳. 日呼吸会誌 2006;44(12):906-914.

4) 厚生労働科学研究費補助金新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 「重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析, その診断・治療に関する研究」http://strep.umin.jp/pneumococcus/case_study.html

5) Suzuki M,  et al. The Lancet Infect Dis. 2017;17(3):313-21.

6) Heo. J Infect Dis 2022;225:836-45.

7) Azuma. Vaccine 2023;41:1042-9.

8) Kawakami. Vaccine. 2010;28(43):7063-7069.